成田空港拡張差し止め裁判―「原告適格なし」に徹底反論
千葉地裁民事第3部(岡山忠広裁判長)で5月24日、成田空港拡張差し止め裁判が開かれた。この裁判は三里塚芝山連合空港反対同盟が国と成田空港会社(NAA)に対し、①B’滑走路の2500メートルへの延長(2006年)、第3誘導路建設(10年)の違憲・違法性を追及し、②さらに「空港機能強化策」を掲げた施設変更許可(2020年)により現在進められているB’滑走路の再度の延伸(3500メートル化)、第3(C)滑走路建設などの空港拡張工事の差し止めを求めるものだ。
成田空港は、66年に作られた「基本計画」を完全に無視し、その時々の都合で施設を造り続けてきた。そして今や機能強化と称して周辺住民の生活を圧迫・破壊しながら、敷地面積2倍化(全長12キロ!)へ向けた途方もない規模の拡張工事に手を付けているのだ。
被告・国は5月17日付準備書面で、次のように主張してきた。
「原告適格がある者は、機能強化によって私権制限を受ける区域内に財産権を有する者だけだ」「航空法の条文、『空港等又は航空保安施設の設置によつて、他人の利益を著しく害してはならない』とは、周辺に居住する住民個々の個別利益を保護するものではない」「他人の利益とは、そこに土地を有している者の財産権だ」
そして、原告全員に対し「区域内に財産権を有していない。原告適格がない」と切り捨てる。
その上名指しで、太郎良陽一さんについて「財産権について主張立証していない」から認められない、伊藤信晴さんについては「いかなる財産権を持っているか証明してみろ」などと迫るのだ。
反対同盟顧問弁護団が怒りに燃えて反論を行った。
被告の主張は、住民の人格権、すなわち人間としての根源的権利性をまったく無視している。「権利」は財産=不動産に切り縮められ、空港の拡張は「公共利益の増進だ」とされる。
日本社会を根底的に腐敗させている「今だけ・金だけ・自分だけ」という拝金主義的思考を航空行政に導入するものだ。
2014年の厚木爆音訴訟横浜地裁判決では自衛隊機の夜間発着訓練を禁止する画期的判決が下された。憲法に保障される生命・身体の保全を除外して、「財産権だけが権利だ」などという主張は認められない!
さらに弁護団は、被告NAAの居直りを断罪した。NAAは原告への反論として、「B延伸、C新設によって周辺住民に生命・身体等の被害が生ずるとは認められない。そのことは、機能強化について周辺自治体で実施された住民への説明会での質疑の状況によって左右されない」などと言い出した。
かつて国と空港公団(NAAの前身)は暴力的一方的な空港建設を進めてきたことを認め、「あらゆる意味で強制的手段をとらない」と公的に誓約したが、それらすべてを投げ捨てる住民無視のとんでもない暴論だ。
その上で弁護団は、NAAが提出した15年度、19年度の空港周辺地域の騒音データを解析して、航空機騒音が住民の健康に与える睡眠障害などの被害を指摘した。さらに、夜間飛行回数が増加された20~23年の夜間騒音データを提出するよう求めた。
10人を超す国・NAAの代理人はだんまりを決め込むのみ。
裁判長は、「原告と被告、よって立つ立場は違うと思うが」などと前置きをしつつ、「20年の施設変更許可の是非を問う裁判だから、それより後の騒音データの提出を求めるというのはどうなのか…」などと「疑問」を呈した。
だが問題は「立場の違い」や「後か先か」ではない。騒音で人権が踏みにじられているという現実だ。違法、無法な変更許可がもたらした結果として夜間騒音が激化しているという関係性の証明に向けてデータは不可欠であり、この点を今後一層追及する姿勢を弁護団は明らかにした。
次回期日を9月13日、次々回を12月24日と確認し閉廷した。
近くの会場で伊藤信晴さんの司会で報告集会が開かれた。
弁護団が発言に立ち、財産権をたてに原告適格を否定し、人権を踏みにじって空港拡張に突き進む被告の国、NAAを痛烈に批判した。
傍聴参加者から、空港周辺住民のAさん、市東さんの農地取り上げに反対する会、全学連が連帯の発言を行った。
全学連の学生は、萩原富夫さんも参加した5月沖縄闘争、辺野古現地闘争を生き生きと報告し、さらに隊列を増強して、反戦と農地死守の実力闘争を反対同盟とともに闘いぬくことを誓った。
最後に伊藤さんが、自分が不当にも「原告適格なし」と決めつけられた怒りを表しながら、「機能強化策の本当の狙いは成田の兵站(へいたん)基地化だ」と鋭く提起して一同の奮起を促し、7・7農楽まつりへの参加を呼びかけた。(TN)
スケジュール
◎7・7農楽まつり 7月7日(日)午前10時 市東さんの南台の畑に集合→萩原さんの清水の畑までデモ 正午 農楽まつり 主催/三里塚芝山連合空港反対同盟
◎耕作権裁判 7月8日(月)午前9時千葉市中央公園集合→市内デモ 午前10時30分開廷 千葉地裁
◎団結街道裁判 7月16日(火)午後1時30分開廷 萩原富夫さんの本人尋問 千葉地裁
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