三里塚新やぐら控訴審―「やぐらは市東さんの農業を守る盾」
10月20日、東京高裁第2民事部(渡部勇次裁判長)で、新やぐら裁判控訴審の第1回が開かれた。三里塚芝山連合空港反対同盟と顧問弁護団、支援の労働者・学生・市民は、天神峰・市東孝雄さんの農地を体を張って守り抜く決意で、この日の闘いをやりぬいた。
開廷に先立つ午前11時30分、日比谷公園霞門に集合、デモ前の打ち合わせを行った。東峰の萩原富夫さんが「やぐらと看板は私たちの闘いのシンボルであり、市東さんの生活と農業を守る盾だ。空港会社は無謀にも空港機能強化、第3滑走路建設へ向かっているが、今はもはや大規模な空港が必要ない。二酸化炭素をまき散らして人と物が大量に移動する時代は終わった。年間6千万人の観光客を呼び寄せるという観光立国政策も破綻した。農地を奪って空港を拡張するなど許さないと訴えデモに立とう」と呼びかけた。
動労千葉の中村仁副委員長は、この日韓国で闘われている民主労総のゼネストと連帯し、JRの大合理化攻撃と闘う決意を述べ、11・7全国労働者集会(日比谷野音)への大結集を訴えた。
さらに、関西実行委、市東さんの農地取り上げに反対する会の連帯発言を受け、太郎良陽一さんの音頭で力強くシュプレヒコールを上げて、反対同盟を先頭にデモに出発した。快晴のもと首都中枢・霞が関を、国策と対決し「農地死守」を訴える農民のデモが席巻した。
この新やぐら裁判は、市東さんの天神峰農地に建つ監視やぐらや看板など4つの物件(所有者はいずれも反対同盟)について、成田空港会社(NAA)が「収去と土地の明け渡し」を求めて提訴したもので、昨年8月の千葉地裁でのNAAの主張を認めた不当判決に対し、反対同盟が控訴した。一方NAAは今年5月に、仮執行宣言を求める「附帯控訴」を行っている。盗人猛々しいとはこのことだ! そして新型コロナの影響で5月、7月の期日が取り消し・延期となりこの日を迎えた。
午後2時、102号法廷で開廷。
最初に萩原さんが、反対同盟を代表して意見陳述を行った。まず1966年の閣議決定以来の国家暴力を使っての空港建設を弾劾し、「農地死守」「実力闘争」という闘いの原則は、政府・空港公団の暴力的手法に対する「抵抗の哲学だ」と明らかにした。さらに日本の食料自給率の低下と地球温暖化、異常気象の深刻化の中で、成田空港が航空機の長距離移動によって二酸化炭素を大量に排出し温暖化を促進する拠点となっていること、しかも航空需要拡大の見込みも必要性もないのに第3滑走路建設、24時間運用へと突き進み、農業と環境を破壊し、騒音被害を拡大していることを厳しく指摘した。「成田空港がいかに犯罪的で反社会的な存在であるのかが分かる」と断じ、市東さんとともに培ってきた「三里塚産直の会」の意義を確認し、空港、ダム、原発、軍事基地など環境破壊の建設をやめるよう迫った。そして、「反対同盟の看板とやぐらは、NAAの人権侵害と無法な空港建設を告発するとともに、市東さんの人権と生活を守る盾になるもの。農地と一体であり、反対同盟の決意そのものだ。だから絶対に撤去することはできない」と締めくくった。傍聴席からは感動の拍手が湧いた。
続いて反対同盟顧問弁護団が一人ひとり立ち、全力を傾けて作成した400ページを優に超す控訴理由書と補充書の要旨を陳述した。
市東さんの天神峰耕作地についてNAAは「所有権を取得した」と言い張り、その一角に建つやぐら・看板を取り除けと迫っているわけだが、その「所有権取得」は無効だ。耕作者である市東家に無断・秘密で旧地主から底地を買収した。空港公団=NAAはその土地を転用する具体的な計画も見通しもなく、それを15年間も隠し通してきたのだ。あらゆる意味で明白な農地法違反だ。ところがNAAは「成田なら何をやっても許される」とばかりに、千葉県知事から賃貸借契約解除の許可決定を取り付け、市東さんに「農業をやめて出ていけ」と裁判に訴えてきたのだ。こんな詐欺・地上げ屋の手口を容認し、やぐら・看板の収去にお墨付きを与えた原判決は致命的に誤っている。
かつて空港公団総裁が受け入れた「あらゆる意味で強制手段を用いない」との公約を踏みにじることは許されない。強制執行は権利濫用、人権侵害であり、1971年強制代執行の小泉よねさんに対する凄惨な暴行の再来だ。
成田は今コロナ情勢のもとで閑古鳥が鳴き、その存続自体が問われている。航空需要は消失して回復する見込みもなく、もはや「農地を取り上げて誘導路を直線化する」ことの意味がなくなっている。
東京高裁は原判決を取り消せ!
弁護団の陳述の迫力に圧倒され、被控訴人NAAの代理人はうつむいて耐え忍ぶばかりだ。NAAは当然にも、弁護団が主張する法律的な主張を事実関係に基づいて具体的に認否・反論しなければならないのだが、彼らが7月に出してきた「反論」は、粗雑で無内容な項目一覧表だった。弁護団はこの一覧表を徹底批判する準備書面を提出し、今後も追及を緩めないことを明言した。
弁護団はさらに、証人調べとして法理哲二(1988年の農地買収当時、空港公団用地部課長補佐)、浅子直樹(2003年の土地所有権移転登記時の公団用地部長)の2人が不可欠であることを強調し、3人の専門家、そして市東さん、萩原さんの証人申請を予定していることを述べた。
渡部裁判長は終始表情を表に出さず、淡々と「今後の進め方は協議して決めたい」と言うが早いか、閉廷を宣して出て行った。次回期日は来年1月19日(午前10時30分開廷)。
弁護士会館で報告集会が開かれた。伊藤信晴さんが司会を務め、萩原さんのあいさつに続き、弁護団事務局長の葉山岳夫弁護士が立ち、「このやぐら裁判を徹底的に闘うことは、市東さんの天神峰農地への強制執行を阻止する上で、非常に重要なポイントをなす」として、攻防の全体像を解説した。さらに弁護団全員が発言し、市東さんの農地を守りぬく決意と展望を明らかにした。
参加者からも発言を受け、最後に決戦本部から10・31天神峰カフェ開催の告知を受け、一日の闘いを締めくくった。(TN)
スケジュール
◎天神峰カフェ 10月31日(日)正午 市東さん宅離れ集合
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