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命を守れる賃金を イギリスで看護師10万人がストライキ 

ロンドン中心部にあるセントトーマス病院前のピケット(12月15日)

アデンブルックズ病院前のピケット(12月15日 ケンブリッジ)

イギリスで12月15、20日の2日間、労働組合・王立看護協会(RCN)に所属する看護師約10万人がイングランド、ウェールズ、北アイルランドでインフレ率プラス5%の賃上げを求めてストライキに立ち上がった。1916年の設立、76年の労働組合登録以来初めてのストであり、48年につくられた国営医療制度(国民保健サービス=NHS)史上でも最大規模の看護師ストだ。政府は要求に応じておらず、RCNは年明け以降もストを構える予定だという。
イギリスでは、戦時下でのエネルギー価格高騰に加え、前年同月比10%を超える記録的なインフレが続く。労働者民衆の困窮が極限的に進み「もうたくさんだ!」という民衆の声が街頭にあふれ出している。とりわけ12月7日からは、全国のどこかでストライキが闘われていない日は一日もない。教育、郵便、バス、港湾、エネルギー、公共機関、高速道路、空港などで長期ストや産別統一行動なども含めてまさしくゼネストが闘い抜かれている。その先頭には、13日から全国的なストに入った鉄道・海運・運輸労組(RMT)が立っている。21日にはイングランドとウェールズの救急隊員約1万人もストを行った。こうしたなか、46万5千人の組合員を擁するRCNのスト決起は巨大な事態だ。
イギリスでは、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行によって現在までに21万人以上が命を落としている。これは避けられない事態ではなかった。「集団免疫戦略」のもと、命を守るためのコロナ対策を意図的に放棄したジョンソン政権による虐殺に等しい。
こうしたなか、命がけで治療にあたった医療労働者は一時的に英雄扱いされたものの、支払われる賃金は「侮辱」(スト参加者)的な低さにとどまる。そこへ物価高騰に直撃され、多くの看護師が食料を買えずにフードバンクに頼らざるを得ない。家賃も高騰し、あるスト参加者は「給料は家賃ですべて消えてしまう」と語る。看護師は低賃金のため、アジアや中東、アフリカ出身の移住労働者が多いことも特徴だ。
こうした労働条件の低さは患者の命の危機に直結している。長時間の激務に見合わない低賃金のせいで退職者も後を絶たず、その結果としてイギリスでは現在、看護師が5万人も不足しているのだ。こうしたなかで看護師たちは、このままでは患者の命も自らの命も、NHSという制度自体も守ることができないと訴えて立ち上がった。

ロンドンの首相官邸近くで抗議行動を行う看護師や支援者(12月20日)

●続々と寄せられる熱いスト支持の声
「15、20日には私たちは働きません。ピケットラインでお会いしましょう」。歴史的決戦となったストに上りつめる過程で、RCNはウェブサイトに特設ページをつくり、組合員にはストとピケットラインへの参加を、市民にはスト支持の行動を呼びかけ続けた。
スト1日目の15日、ロンドンでは氷点下5℃の冷え込みのなかでも多くの労働者・支援者が病院前などでのピケットラインに駆けつけ、手に手にプラカードを掲げて「人員不足は患者の命を奪う」「労働者に公正な賃金を」と訴えた。多くの労働者市民が共感を寄せ、温かい飲み物やピザの差し入れ、車の運転席からのクラクションなどで応えた。
ある市民は「みなさんのすばらしい仕事は、まともな賃金と労働条件、敬意に値します。闘い続けてください。みなさんが勝利することを願っています」と手書きした紙を持ってピケットラインに駆けつけた。
16~19日に行われた世論調査では看護師スト支持が66%に達し、反対の28%を大きく上回った。

●王室制と戦争協力乗り越える闘いへ
今回のストは、新自由主義の「本家」であるイギリスで、王室制度のもとでつくられてきたRCNのあり方を乗り越える可能性を秘めた闘いでもある。
1979年以降、ロナルド・レーガン米大統領や日本の中曽根康弘首相と並んで新自由主義攻撃を推し進めた首相マーガレット・サッチャーは公的医療を目の敵にし、NHSへの業績評価制度や市場原理導入に道を開いた。その結果もたらされた医療の崩壊を団結した労働者の実力闘争で乗り越え、公的な医療を奪い返す過程が始まったのだ。
さらに、王室の名を冠したRCNからの決起には大きな意義がある。
RCNの前身である看護学校は1916年、第1次世界大戦のただなかで設立された。当時、多くの女性が前線や野戦病院で負傷兵の看護に携わっていた。
26年には王妃メアリーがRCNの公式パトロンとなり、39年にはジョージ6世が第2次大戦下で「看護師の供給を確保する上で重要な役割を果たした」として「王立」の称号を与えた。46年には、戦争での「功績」を認められ、王室から紋章を付与されている。女性の団体(当時)としては初めて、軍務を示す盾を紋章に使用することが許可されたのだという。
このように、イギリス帝国主義は当初から看護師の組合を戦争の道具として位置づけ、特別な地位を与えてきたのだ。しかし、今回の戦時下でのストは必ず、この構造そのものを打ち破り、ウクライナ戦争に深々と加担するイギリス帝国主義を打ち倒す力を生み出すものとなる。日本でも、医療・福祉・介護労働者を先頭に連帯して闘おう!

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