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セブン契約解除無効裁判、堂々の意見陳述 命より大切な契約書はない

昨年12月、松本オーナー(左)への契約解除通告に抗議し記者会見。右は河野さん(東京)

時短営業で闘うセブン―イレブン・ジャパン加盟店の松本実敏オーナーの契約解除無効を争う裁判が8月14日、大阪地裁で始まった。コンビニ関連ユニオンのブログに掲載された河野正史委員長の傍聴記の要旨と松本さんの意見陳述の全文を紹介します。(編集局
昨年12月31日にセブン本部から「クレームが多い」なる理由で不当にも契約解除攻撃を受けていたセブン―イレブン東大阪南上小阪店の松本実敏オーナーの契約解除の無効を争う裁判が8月14日、大阪地裁202号大法廷で開かれました。
松本オーナーは、裁判長と本部側弁護士を圧倒する堂々たる意見陳述を行い、「加盟店が24時間営業に従っているのは契約解除や違約金を恐れて本部に逆らえないからで、今回の契約解除は時短営業への見せしめだ」「オーナーやその家族の自殺、過労死が相次いで報告されている。命より大切な契約書はない」と本部経営陣を弾劾しました。そして、「全国のオーナーたちの声なき声を代弁し、本部との対等な交渉を行うことをめざす」と本裁判の目的を述べ、陳述を締めくくりました。法廷内は大きな拍手に包まれ、裁判長の「静粛に!」という声がかき消されるほどでした。
一方、本部側の弁護士は「松本オーナーがお客様に頭突き、飛び蹴りをした」なるでっち上げを十数回も引用するなど中身のない陳述に終始し、マスメディアには「松本オーナーを応援する報道はやめること」と注文する始末でした。
裁判後、松本オーナーは「私個人の闘いではない。私よりも苦しんでいる全国のコンビニ関係で働くすべての仲間のために闘い、勝利する」と感動的に語られました。(コンビニ関連ユニオン委員長 河野正史)


意見陳述

2020年8月14日
松本 実敏

第1 はじめに

私は、2012年からコンビニエンスストア「セブンーイレブン」の東大阪南上小坂店のオーナーをしておりましたが、昨年12月末、突然セブンーイレブン本部から店舗の明け渡し、商品の販売停止などを求められ、店のレジシステムや発注のシステムを一方的に停止されたため、閉店を余儀なくされました。

これは、私が2019年2月から人手不足のため深夜営業を中止したこと。つまり時短営業を始めたことや、苦しんでいる他店にも時短を認めてほしいと訴えていることに対する見せしめです。

私がなぜ時短営業に踏み切らざるを得なかったか、それに対してセブンーイレブン側がいかに理不尽な対応をとったのか、コンビニオーナーが置かれた過酷な状況について、これから事実を偽ることなく述べますので、どうか公正なご判断をくださるようお願い申し上げます。

第2 コンビニオーナーへの誘い文句と現実は大違い

私がセブンーイレブンと店舗オーナーの加盟契約を結んだのは、2012年1月のことでした。それまでは家業を継いで工務店を営んでいましたが。この業界は受注変動が激しく、収入が不安定です。そんな中、たまたまコンビニオーナー募集のチラシを見て説明会に参加したわけです。

説明会では、いろいろいいことばかり言われました。けれど、やはり24時間365日休みがないのには躊躇しました。すると本部社員は「オーナーヘルプ制度があるので、年に2~3回は海外旅行に行ける」とか「最低収入保障があり、月に40万円以上の安定収入が確実」で、何かあれば、いつでも本部が助けますので心配はいりませんと強く言われ、当初は迷いましたが、契約を決断しました。説明会では、開業資金は250万円と聞いていましたが、実際には、設備関連200万円、商品仕入れ代700万円など合計1000万以上かかりました。加盟金以外はすべてセブンーイレブン からの借金となり、利子まで背負わされました。

開業にあたっては妻の参加、つまり夫婦二人での店舗運営が条件とされ、妻もマネージャーとして店に立ちました。妻は日本舞踊とポーセラーツ(西洋磁器の絵付け)の資格を有して二つの教室を開いており、コンビニ開業後も兼業するつもりでいました。しかし、「24時間365日無休営業」が原則ですから店を抜け出すことができず、教室との兼業は出来なくなくなりヽ開店以降は交代で店に立ち、夫婦すれ違いの生活が続きました。

海外旅行など夢のまた夢、休みさえろくに取れず、母親の葬儀にあたっては、本部の担当カウンセラーにヘルプを求めたにもかかわらず、「急に言われても無理」と応じてくれませんでした。葬儀は急に入るものなのに、これではオーナーヘルプ制度など存在しないも同然です。

とはいっても、必死で働きました。開店後三日間でセブンーイレブンの電子マネーカード(ナナコカード)の会員1000名の獲得を達成しました。当時。3日で1000枚を達成した店舗は関西では他にありませんでした。半年後には24時間営業に対応するため、地区外にあった自宅からコンビニ近くのマンションに引っ越しもしました。何も考える余裕がないほど働きました。こうして。私達夫婦は開業から4年で約1000万円の借金を返済することができました。ただ、私は本部社員による商品の過剰発注をやめさせて廃棄ロスを減らしたり、おでんセールに売れもしないのに3000個のおでんを無理矢理発注されそうになり、慌てて取りやめたこともありました。

セブン-イレブンの意向に必ずしも従いませんでした。この間、さまざまな無理難題を押しつけられましたが、本部の要求を黙って受け入れていると、加盟店はボロボロにされると思っていました。

第3 妻の死をきっかけに深夜営業を停止

開業から4年余りたった2016年7月、妻に膵臓ガンが見つかりました。妻は辛抱強い性格でした。過労やストレスが影響したのかもしれません。手術後、妻は再び出勤するようになったものの、抗がん剤をうちながら店に立ち続けましたが、翌年にはガンが転移し2018年5月に死亡しました。亡くなる直前、病院の喫茶店で、二人でモーニングを食べていた時に「こんなん出来るなんて夢みたい。」と漏らした妻のー言が今でも忘れられません。コンビニなどやるのではなかった、と今は後悔ばかりが募ります。

妻はマネージャーとして、パート、アルバイトの不満のなだめ役も務めていました。その役割を果たす人がいなくなり、それからほぼ半年の間にアルバイト20人のうち13人が辞めてしまいました。コンビニの仕事はきつくて責任が重く、客から罵声を浴びることも多いのに賃金は安いとあって、今や若者から敬遠されるバイトの代表格です。このため、わが店舗の人手不足はその後も解消されず、やむなく私は一日22時間シフトに入りましたが、それでも店は回りませんでした。

このままでは過労死することになる。そう悟った私は、迷ったあげく2019年2月、午前1時から6時まで店を閉じる時短営業に踏み切りました。これに対し、本部はフランチャイズ契約の解除と1700万円の違約金支払いを通告しました。しかし、私が24時間年中無休営業の過酷さなどをマスコミに訴えると、世論の批判を恐れたのか、本部はこれを撤回しました。

私の時短営業が報道されると、全国のオーナーとその家族、従業員、配送ドライバーなどコンビニ関係者から「よくやった」「自分も死にそうだ」といった激励、共感の声が手紙や電話で相次いで寄せられました。その数は約300件に達し、中には鹿児島や広島から直接来店して励ましてくれるオーナーもいました。セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソンなど加盟企業を問わず、24時間営業の不満はそれほど強かったのです。表立って声が上がらなかったのは、本部に契約更新を拒否され、閉店に追い込まれるのを恐れているからにほかなりません。

第4 理不尽なクレームさえ本部は契約解除に逆用

時短営業に入った後も人手不足は続いており、特に正月はアルバイトの確保が困難であることから、私は2019年10月、元日の休業を申し入れました。すると本部側は、私の店にはクレームが異常に多いと強調し、店舗運営に難癖をつけ始めました。開店の2012年2月から時短営業をスタートさせた2019年2月まで、私は本部からクレームがあると知らされたことは数回しかありませんでしたし、そのことに関しては本部社員ともお客様ともしっかり話をして、全て解決してきていました。にもかかわらず、時短営業を始めるや、開店以来温存してきた「クレーム」を持ち出して来ました。

コンビニはさまざまな客が利用します。中には店のトイレを公衆便所のように使って汚し放題、駐車場に何時間もクルマを止める、ゴミ箱には家庭ゴミまで捨てる、といった非常識な人たちがいます。レジの行列に割り込む客を注意すると「じゃかましい、ボケ」と罵倒されることなど、しょっちゅうです。

私の店の近くには近畿大学の付属高校・中学があり、保護者会などの行事があるたびに、13台の駐車スペースは保護者のクルマで占領されました。たまりかねて近大関係者の注意書きを掲示すると、無断駐車の人の一部は逆恨みして本部にクレームを入れたこともあります。その後、20分以上の駐車は有料にしましたが、こうした事情は本部も熟知しています。

私は、理不尽なお客さんにも3回までは低姿勢で臨みましたが、それでも態度を改めてくれなければ、毅然と対処することにしていました。皆さんに気持ちよく買い物をしてもらうためには、お客さんを選ぶ必要があるのです。本部はどんな客のわがままも我慢するよう指導しますが、トイレの備品や水道代、ゴミ箱の後始末など過剰サービスの負担はすべて我々オーナーに押しつけられています。本部はその犠牲の上に利益だけを享受しているのではないでしょうか。

けれどもセブン-イレブン本部は2019年12月、店のクレーム件数の多さなどを理由に一方的に契約の解除を通知し、はじめに述べたように8年間続けた私の店を閉店に追い込みました。

そして、さらに、2020年に、契約は解除されたと主張して、店舗の明け渡しを求める本件訴訟を提起してきたのです。

第5 「命より大切な契約書などない」

コンビニのフランチャイズ契約では、24時間365日休むことなく店を営業することが求められ、私たちオーナーはそれを承知で加盟契約を結んだと言われます。しかし、ひと昔前とは異なり、コンビニを取り巻く環境は激変しています。人件費は高騰し、人手は集まらず、法律で労働時間や休日についての規定がないコンビニのオーナーと家族は休むことなく店に立ち続け、命の危険にさらされているのです。実際、一年に一日の休みも取れず、過労で倒れて救急車で運ばれたりする実例は後を絶ちません。家庭崩壊や自殺、過労死といった悲劇さえ報告されています。それでもオーナーたちが「24時間、365日」に従っているのは、本部がオーナーたちを契約書で縛り付け、契約解除、違約金で脅し、逆らえない状態に置いているからです。

コンビニ本部は、こうした現実を改め加盟店オーナーの実情に沿って営業時間や休日を柔軟に見直し、業界の健全な発展をはかるべきです。私が「命より大切な契約書はない」と訴えているのは、このためです。

今回の裁判の目的は、第一には私自身の生活の糧であり、妻と一緒に苦労して築いた店を取り戻すことにあります。私は、店の閉店により唯一の収入源を絶たれ、しばらくは蓄えを取り崩して暮らし、現在は友人の大工仕事を手伝うなどしてなんとか生活をしている状況です。

しかし、裁判の目的はそれだけではありません。私は、同時に全国のオーナーたちの声なき声を代弁し、コンビニ本部と対等な交渉を行うことをめざしています。そうしなければ、24時間営業の強制はもとより、異常に高いチャージ(上納金)、特定地域に集中出店させるドミナント戦略、見切り販売(賞味期限直前食品の値下げ)への妨害など、コンビニ業界が抱える構造的問題は一向に改善されないと思うからです。

私の店舗の時短営業をめぐる動向は、国内のマスコミのみならず、海外のメディアも注目しています。ニューヨークタイムズは「クリスマスも休めないコンビニ商法がやってくる」と、米国に進出するセブン-イレブンの24時間営業を批判的に報道しました。本件の裁判は私の個人的問題ではなく、契約書を盾に多大な負担を強制し、本部の利益のためなら命までをも奪ってしまう大企業に対する道徳(モラル)の有無を問う問題なのです。

どうか、絶対的優位の立場を利用してオーナーや家族、従業員に犠牲を強いるフランチャイズ関係ではなく、本部と加盟店、利用者が真に共存共栄する業界へ、発展出来ますように、賢明なご判断を重ねてお願い申し上げ、私の陳述といたします。

以上

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