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三里塚新やぐら控訴審で市東さんと3人の専門家が証言―「やぐらは私の農業と不可分一体」

新やぐら控訴審第2回閉廷後、弁護士会館ロビーで報告集会。午前から夕方までの長い闘いを全力でやりぬいた反対同盟、顧問弁護団、証言者、支援の労働者・学生・市民が健闘を称えあった(1月19日 東京・霞が関)

1月19日、東京高裁第2民事部(渡部勇次裁判長)で、新やぐら裁判控訴審の第2回が開かれた。
この裁判は、市東孝雄さんの天神峰農地に建つ監視やぐらや看板など4つの物件(所有者はいずれも三里塚芝山連合空港反対同盟)について、成田空港会社(NAA)が「収去と土地の明け渡し」を求めて提訴したもの。一昨年8月に一審千葉地裁で不当判決が下され、反対同盟が控訴した。
この日は午前から夕方までかけて市東さんと3人の専門家の証人調べが行われ、NAAの主張を認めた一審判決が、法手続き的にも法の理念に照らしてもまったく誤りであり覆されるべきものであることを全面的に明らかにした。
午前10時30分に開廷。最初に市東さんが証言台に立ち、反対同盟顧問弁護団が質問を行った。
市東さんは、祖父の市太郎さんが1921年頃に成田市天神峰の地で農業を始めた経緯を語り、父・東市さん、自分と100年にわたって耕してきて、「耕作する土は、自分の身体の一部になっている。どこにでもある土とはわけが違う」と自信をもって断言した。さらに「空港反対」を掲げた反対同盟の監視やぐら・看板を農地に建てるにあたり、旧地主とは何の問題も生じなかったことを述べた。

証言を行った北海道大学教授・吉田邦彦さん(中央)と市東さん(右)

そして市東家に無断・秘密で、空港公団(NAAの前身)が旧地主から農地の底地を「買収した」こと、2003年に新聞に出てそれを初めて知ったことを怒りを込めて語った。「旧地主は平気な顔をして15年も地代を受け取っていました。公団に売ったのが事実なら地代を返すべきです。公団と組んで小作人をペテンにかけたのです」「父は遺言書で農地を絶対に売り渡すなと書いたほどだから、この事実を知っているわけがありません」
このように、耕作者に無断で地主が農地を売り渡すことについて、市東さんは「絶対に無効。小作権者の権利を侵害しています。公団でもそのようなことをやったのは後にも先にもないはずです」と語気を強めた。また、転用の見込みもなく農地を15年間もそのままにしていた買収について、「農地法3条に違反し無効」と断言した。
そして空港公団が「あらゆる意味で強制的手段を用いず話し合いで解決する」と社会的に公言したにもかかわらず、それを踏みにじりNAAがやぐら・看板の撤去を求めていることを弾劾した。
最後に市東さんは、「反対同盟が建てた看板ややぐらは、私の完全無農薬有機農業と三里塚産直の会の産直運動と不可分一体のものです。これを強制的に撤去することは自分の農地を取り上げることと同じです。裁判長は撤去を認めない判決を出すよう要請します」と述べた。このゆるぎなく鮮明な訴えに、傍聴席から感動と共感の拍手が起きた。

市東さんの農地の一角に建つ三里塚反対同盟の監視やぐら(左)と旧小見川県道沿いに建つ看板(右)

2番目に、専修大学教授(憲法学)の内藤光博さんが証言した。内藤さんは、「生存権的財産権」「営農権」が市東さんにはあると解き明かし、さらに抵抗権の行使として「農地を守ることとやぐら・看板による意思表明は一体だ」と論じた。
午後に移り、3番手として北海道大学教授(民法学)の吉田邦彦さんが証言した。吉田さんは「居住福祉法学」の考えを示し、「住まいは単なる商品ではない」「金銭や金目だけで解決をはかる日本のあり方は諸外国からも立ち後れている」と述べ、「(空港会社は)市東さんの身体の一部をもぎとるようなことでしか、本当に将来を語れないのか」と迫った。
最後に埼玉大学名誉教授(経済学)の鎌倉孝夫さんが証言した。鎌倉さんはコロナ禍で航空需要が激減し、破綻が明白な成田空港の経営実態や将来について分析し、「生存・生活基盤である農業は必要不可欠。農民の耕作を破壊することは法の名に値しない。一審判決は是正されるべき」と強調した。

“DOWN WITH NARITA AIRPORT”(成田空港粉砕)とかかれた反対同盟の看板は、への字誘導路を走行する飛行機からもよく見える

NAA代理人は反対尋問を一切放棄し、卑劣な沈黙を貫いた。
長丁場の闘いをやりぬいた高揚感を湛えながら、夕刻、弁護士会館のロビーで簡単な報告集会が行われ、反対同盟、弁護団、証言者、労働者・学生が健闘を称えあった。市東さんがお礼を述べ、葉山岳夫弁護士をはじめ顧問弁護団が、圧巻の証言を振り返りながら勝利への決意を表した。吉田教授は「コロナ禍で事情が変化したというのに、機能強化を進めるというのは論理的に破綻している。現実と向き合えば一審と同じ判決になるはずがない。そこまで権力追随になるかどうか、高裁が厳しく問われる」と述べた。
最後に反対同盟事務局の伊藤信晴さんが1月30日の天神峰カフェを告知し、全員で農地死守をあらためて誓い合った。
次回期日は3月14日(月)午後2時開廷。最終弁論が行われる。(TN)

専門家3人の証言要旨
〇内藤光博さん(専修大学教授・憲法学)

内藤光博教授

成田における空港の問題は長い反対運動の歴史が、60年代、70年代、80年代と国を二分するほどの熾烈な対立の中で続いてきました。われわれが住むこの社会においてこのような熾烈な対立が続いてきたことは健全とは言えません。
私は現地に行き、農地ややぐらを実際に見て強い印象を受けました。市東さんとも会い、家に上がり、農地の状態、また空港の存在を客観的に見ました。市東さんの農地こそ、生存権的財産であり、ここには営農権が存在します。
この農地には長い年月をかけて、大きな労力が投下されてきました。「公共事業」としての空港建設が、個人の命をかけた生存権的財産を奪い、人間の尊厳を奪うものとなっている現実があります。やぐら、立て看板は、空港に反対する農民の50年を超える命がけの意見表明であり、抵抗権の行使です。
生存権的財産権とは何か。財産権は基本的な権利であり、それなしには近代国家は成立しませんが、財産権には民衆の衣食住に直接かかわる「小さな財産」の財産権と、利益を生み出す「大きな財産」の財産権の2種類があります。市東さんが耕してきた農地は、自らの生存権を確保するための絶対的なものであり、人間の尊厳にかかわるものです。
営農権とは現在の日本国憲法に規定はないが、1961年に制定された農業基本法にその理念が書かれています。ここでは農民の耕す権利、農民の地位を保障し、職業遂行の自由、勤労・労働の自由などの複合的権利の保障と一体のものとして位置づけられています。
「食料安全保障」の重要さは全世界に認められており、各国の憲法にも盛り込まれています。食料の欠乏はそこに衣食住をめぐっての戦争が起きることを意味し、平和のために農業を意識的に保護するのは社会の流れです。スイスの憲法においては国民への食料供給、農地の保全の重大さを明記しており、韓国の憲法においては、戦後において日本支配下の小作制度が廃止されて近代化に進む中で、農民の保護を憲法の原理として明記しているのです。
イギリスの哲学者ジョン・ロックは人間が生まれながらにして持つ権利として普遍的な自由権を唱えました。その内容は身体の自由、経済活動の自由、精神活動の自由であり、その自然権の一つとして抵抗権を唱えました。
人間は協力し連帯し助け合い生きていく存在であり、より良い社会を築くために異議申し立ての自由、表現の自由は最大限尊重されるべきです。人間の尊厳を侵すようなものに対してそれを排除するために闘うことは義務でさえあり、認められるべきものです。究極的な人権侵害がなされているからこそ、それを排除するための表現活動があるのです。
歴史的には、アメリカにおける南北戦争において、1863年に黒人奴隷の解放宣言をリンカーンが行いました。だがその後も現実的には黒人の地位は差別と貧困のもとにおかれました。1970年代の公民権運動の高まりの中で、キング牧師暗殺などの反動に屈することなく、人種差別反対闘争が命がけで闘い抜かれたことで、今日の世界に表現の自由が広がっています。
トマス・エマーソンは、個人の自己実現として、切磋琢磨し真理に近づくものとして表現の自由を解明しました。表現の自由の保障は、社会の安定にも貢献するものです。多数者の利益で少数者の権利が損なわれれば、社会の不均衡によって分断が生じ、精神も荒廃します。少数者の意見を重視しなくてはなりません。
表現には必ず、場所・空間が必要です。インターネットも大事ですが、やぐらの問題は50年の反対運動のその現場にあることに意味があるのです。
その場所に行って初めて理解できることがあります。天神峰の畑にあの看板が建っていることが最も効果的で具体的な表現であり意味があるのです。市東さん自身も「自らの農地と一体のものだ」と主張しています。
平和的な解決が求められています。ドイツの法学者イェーリングは「権利のための闘争」の中で「法の目的は平和であり、それへの手段は闘争である」と述べました。
50年を超す反対運動は、それを支えてきた人が存在するということです。この分裂状態を引き延ばすことは好ましくありません。NAAの言い分ばかりを真に受けるのではなく、裁判所の決断で、この問題を解決すべきです。
成田空港は地権者の土地を奪うことで存在し、今また矛盾を深め、人間のあり方を否定しているものであり、社会に受け入れられない存在です。政策の転換が図られなくてはなりません。矛盾が深まる今こそ政策転換の時です。

〇吉田邦彦さん(北海道大学教授・民法学)

吉田邦彦教授

強制立ち退きは居住福祉法学上もっとも深刻な課題です。2017年3月の福島の原発被害の「自主避難者」(区域外避難者)に対する無償の住宅提供の打ち切りにも表れたように、慎重な検討が必要です。
とくに、借地借家法学の中心的論点である「正当事由」論(借地借家法第6条、28条)との比較検討が必要です。単純な賃貸人・賃借人の利益の比較考量ではなく、生活者の賃借人側の事情に重きを置いた解釈に留意すべきです。
NAAは市東さんに対する賃貸借解約を通知し、その後本件土地の明け渡し請求を行い、上告棄却・判決確定となりました。関連条文は、農地法第20条(農地又は採草放牧地の賃貸借の解約等の制限)2項2号(現行18条2項2号)だが、同項5号「その他正当の自由がある場合」の趣旨を汲んで解釈すべきです。
しかし一審判決では、居住福祉の根幹である「正当事由」は十分に検討されたか。
本件では離作補償として、1億8千万円余が提示され「金目の問題」とされています。
居住を単に容れものとしての「住宅」のみ考えるのではなく、住まいを人格が投影されたものとして、「生業」「消費生活」「教育」「高齢者の医療・福祉」等もかかわるものとしてとらえなければなりません。特に災害復興などでは「生業」の持つ意義は大きい。
本件でも、市東さんの有機農業が彼の居住生活を支える上で、その人格的・非商品的(非商品代替的)保護が重要となります。
財産には市場価値に置き換えることのできるものと、お金に換えられず市場になじまない財、「第1種のメリット財」があります。
アメリカの憲法学では、司法の役割として「反多数主義的視座」という見方が強い。立法・行政で漏れ落ちた社会的弱者をすくい取る「最後の砦」として、司法は機能すべきだという考え方です。そういう基本的視座から、成田関連で行われてきた営農者を蹴散らすような司法で良いのかどうか、小泉よねさんが行政代執行で蹴散らされたようなあり方でよいのかどうかの反省が必要です。
本件で行政代執行と実質的に大差ない強制立ち退きを迫りながら、「それとは異なる農地法20条に基づく明け渡し請求である」と言い張るのは詭弁であり説得的ではありません。
かつての歴史の遺産から学ぼうとする営為にあまりに乏しいのではないか。将来世代への司法の教育としてもあるまじきことであり、再度、本件における居住福祉問題に謙虚に向き合ってほしい。
コロナ情勢で成田の事情はすっかり変わった。これをどう司法に反映するか。「正当事由」の判断に影響しないはずがありません。基本的人権を守ることが何より重要です。私がアメリカで司法を学んだ時に最初に叩き込まれたのが、「司法は何のためにあるのか」でした。立法・行政でもれ落ちた人々をすくいとる最後の砦として、司法の役割があります。
ライアビリティルール(責任ルール)になじまない、プロパティルール(所有ルール)から、市東さんの賃借権と土地を不可譲渡の所有権としてとらえるべきです。
「概念法学」に逃げ込み狭い解釈論に終始するような自己満足的な司法に陥らず、今や世界水準となっている居住福祉的な、人格所有の発想を日本の裁判官も持っているということを、この102号法廷から世界に示すべきです。市東さんの身体の一部をもぎとるようなことでしか、本当に将来を語れないのか、真剣に考えるべき時です。
裁判官も天神峰の現地を訪れ、飛行機の轟音を感じてもらいたいと思います。

〇鎌倉孝夫さん(埼玉大学名誉教授・経済学)

鎌倉孝夫名誉教授

新型コロナ感染症によって、それ以前と比べて成田空港の発着回数は約半分に落ち込み、民営化以降、20年、21年の赤字はふくらみ、収益は4分の1に減少しました。
2020年度決算において経常損失660億円。
新型コロナ感染症は、変異したオミクロン株を生み出しながら国際的問題として続いています。
空港の運用実績は極度に落ち込んでいるが、さらに空港特有の問題があります。飛行機が飛ばなくても施設や滑走路の維持の莫大な費用、固定費がかかり続けていくのです。店舗などのテナントをつなぎとめるための費用も引き続きかかり続け、それでも撤退していく店が後を絶たない。支援措置として国は634億円を融資しました。また機能強化推進のために、総事業費5000億円のうち財政投融資から4000億円の融資を受けています。
NAAは一会社としてはとうに破産状況であるのに、国が100%株式を保有していることで存続していますが、結局はその巨額赤字は国民負担に転化します。なぜ国民がそんなものを担わねばならないのか。
彼らは「いずれ航空需要は回復する」と言い張るが、根拠はなく、旅行需要はすでにぺしゃんこにつぶれました。機能強化策を継続することはコロナ危機への軽視です。航空需要は回復せずますます損失を重ね、無駄な設備が増えるだけです。
今や世界的にはコロナからの復興に向けて、反省が求められており、グリーンリカバリー、グリーンニューディールなどが提唱され、不急不要な航空機の縮小、石炭・石油の火力エネルギーの縮小、二酸化炭素の排出量削減、脱炭素が世界の流れになっています。
航空機の排気ガスは全体の約2%だがそれでも莫大です。航空政策を見直すべきです。
航空機を使わず、列車での移動に転換しようという「飛び恥」運動も起きています。長距離を飛ぶ航空機の需要は少なくなります。
COP26で日本政府は、温暖化防止に努力することを約束した以上、これに反することはできないはずです。ところがNAAは機能強化に固執しています。「日本経済の再生にとって機能強化が不可欠だ」と国、NAAは言うが、実際にその因果関係を示すことはできません。
これまでの経済では成長が求められていましたが、労働者の賃金は上がっていません。90年代と比べると現在の賃金は相当減っている。非正規の労働者、とりわけ女性がその矛盾を被っています。女性の貧困が激増しています。経済成長は労働者・農民にとって良いことだとして政策の中心に置かれてきたが、今はもっぱら儲け中心の産業の競争力を強めることが中心にあります。
農業こそ生活・生存の基盤であり、教育・福祉・医療・介護などとともに不可欠の分野であるのに、日本の農業は危機に陥っています。持続可能な社会のためには絶対に必要な基盤こそ農業です。これまで政府は、自動車輸出と引き換えに農産物輸入を拡大してきました。日本の食料自給率は38%。大事にされているのは輸出向けの農業だけ。
いかにここから転換するかが課題です。農業関連予算は1998年に4兆5千億円だったのが2022年には2兆2700億円で、半減している。
防衛予算は5兆円を超えました。米中対立が深まる中、台湾危機を煽りながら、日本は自衛隊を増強し米から兵器を爆買いしています。
その犠牲にされているのが農業です。農民こそが直接土地にかかわる主人公であり、土地こそ農民の命です。
資本のあくなき利益追求はもう限界に達し、人間の生活は破壊される一途です。
一審判決は「土地の所有者はNAAだ」として、「信義則違反には当たらない、違法ではない」と言うが、だとすれば法律とは一体何なのか。憲法の基本に立ち返り、平和、基本的人権保障に基づいて審理されるべきです。
農業経済の主体である農民の耕作を破壊することは、法の名に値しない、法の原理に反するものであり一審判決は是正されるべきです。

スケジュール
◎天神峰カフェ 1月30日(日)正午 市東さん宅離れ
 空港機能強化問題の学習会などを予定

(1月28日に予定されていた第3誘導路裁判は、コロナ状況で期日取り消しとなり4月に延期になりました)

空港に向けて建てられた看板にのぼり反対同盟旗を掲げる市東孝雄さん(2002年)

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