三里塚耕作権裁判―よみがえる市東東市さんの闘魂

反対同盟を先頭に千葉地裁へ向けデモ。「農地死守、戦争反対！」の訴えが街に響く（２月１９日　千葉市）

成田市天神峰の市東孝雄さんの農地をめぐる耕作権裁判が２月１９日、千葉地裁民事第２部（齊藤顕裁判長）で開かれた。裁判はいよいよ大詰め。３人の証人尋問が行われ、三里塚芝山連合空港反対同盟と顧問弁護団、支援の労働者・農民・学生・市民１００人が「農地死守」の決意も固く全力で一日を闘い抜いた。
開廷を前に正午、千葉市中央公園において、太郎良陽一さんの司会で決起集会を行った。
初めに反対同盟事務局を代表して東峰の萩原富夫さんが発言に立った。この日の法廷での最初の証人、元空港公団用地部職員の法理哲二に真実を洗いざらい吐き出させることを訴えた上、鮮明な決意を表した。「成田空港機能強化の準備工事が今進められているが、これに対し２月２８日にＢ滑走路北側、芝山町菱田をデモする現地闘争を行う。自民党・岸田政権の戦争政策の一環として成田空港を戦争のできる空港へと造り変えることが、機能強化の狙いだ。諸先輩方の命がけの闘いの歴史を継いで、市東さんの南台農地を守り、第３滑走路建設を許さず、軍事空港を粉砕する」

南台農地の土地図。現在市東孝雄さんは、Ａ、Ｂ、Ｃ、Ｄを一体で耕作している。ＮＡＡはＥ１が市東家のもともとの賃借地だと主張し続けているが、市東家がＥ１を耕作したことは一度もない

続いて動労千葉の中村仁副委員長、関西実行委、市東さんの農地取り上げに反対する会が連帯発言を行った。意気高くシュプレヒコールを上げ、強風と降り出した雨を突いて反対同盟を先頭に地裁に向けて市内デモに出発した。昼時の繁華街を力強く行進し、「農地強奪阻止、戦争反対、自民党裏金問題弾劾、ガザ虐殺許すな」の声を一帯に響きわたらせた。

６０を超える傍聴席を埋めて開廷。
弁護団の粘り強い闘いによって、裁判所の呼び出しを無視して逃亡を決め込んでいた、元空港公団職員、法理哲二の証人尋問がついに実現した。

◎法理証人

元空港公団用地部職員、法理哲二

原告・成田空港会社（ＮＡＡ）代理人、上野至の主尋問に答え、法理は、１９８５年から９１年に空港公団用地部職員として土地の買収にいそしんでいたことを述べた。冒頭から、用地交渉については「タテのラインでやっていた」、つまり秘匿性の高い買収交渉をやっていたから、職員同士での「ヨコ」のつながりはなく、課長代理だった自分はただ上司の課長に報告するだけだったなどと強調する。そして、自分は天神峰の石橋政次氏（元反対同盟副委員長）の家屋敷についてのみの担当で、耕作地、小作関係についてはまったく関与していないと言う。「どこを耕作していたか知らない。現場にも行ったことはない」、だから自分はこの裁判とは無関係だというわけだ。
主尋問はあっさりと終了し、弁護団が反対尋問に立った。当時の買収の具体的態様や実情を述べさせた。
法理は、石橋に直接連絡を取っていたのは自分だけだとし、反対同盟破壊・切り崩しの大罪を犯していることを十分に自覚しながら、石橋と会うときは自宅には訪れず、畑の一角などの人目につかない場所で密会し、買収・移転の交渉を進めていたという。８４年の売買契約の時には立ち会った。移転先の石橋家にも訪れ、何かと世話を焼いた。しかし、小作地の場所や耕作の現況などについての話などは一切していない、担当は私じゃない、と白を切った。
実に不自然だ。石橋家の土地買収・移転に深く関与し、移転後のアフターケアまで入念に行ったというのに、小作地のことについては一切かかわらず、知らないというのだ。
また、石橋に関連する一坪共有地の買収についても、用地部内の別の部署「特別用地対策室」が担当したと言い、さらに石橋家の敷地内に建っていた現地闘争本部の土地の分筆についても「知らない」と言い張った。
そして小作地の地主である藤﨑を担当していたのは故・上西亮治だったとして、底地の買収や小作権の解除について自分は一切かかわっていないことを強調した。藤﨑の家に行ったのは、２０００年代に入ってから出向先の鉄道会社の別用でと述べた。
この裁判においては、ＮＡＡが証拠として出してきた、市東東市さん（孝雄さんの父）が、耕作地の位置を地主・藤﨑と確認し合い署名捺印したとする「同意書」「境界確認書」の真偽が重大争点となっている。特に、これに関連する報告書などが、一切存在しないというＮＡＡの主張があまりにもデタラメだ。この点について、買収交渉の当事者としてどう思うかを聞かれた法理は、「私なら報告書を作成した」と言いつつ、「ほかの人の報告書などは見てない。自分の仕事しかやっていない」とあくまでわれ関せずの態度を決め込んだ。
裁判長が「時間切れ」を再三告げて、疑問を多々残したまま法理の尋問は終了した。

◎横井証人

横井文美さん

二人目の証人は、横井文美さん。支援として三里塚現地に常駐しながら身近に接していた市東東市さんの人となりを証言した。
横井さんは開港目前といわれた７６年に岩山大鉄塔を守る呼びかけに応え、大学から三里塚闘争支援に駆け付け、そのまま現地に残った。敷地内の天神峰・東峰の反対同盟農家に頻繁に援農に入り、当時の耕作状況も鮮明に記憶している。
石橋家の耕作地は関係土地図のＡ、Ｅ、Ｆだった。石橋家の屋敷の土地とＥ１にまたがって屋敷林が存在し、それに続いて低木が植わっていた。
石橋家が８７年に移転してから、Ｅ１を耕した者はいない。
横井さんは昨年秋に二度、石橋政次氏の遺族である３人を訪ね会話をした。そこで政次氏の長女から、低木が伽羅（きゃら）であることを教えられた。伽羅は上に向かってはあまり伸びず、横に広がり、垣根などに適している。
また次男からは、彼が７１年９・１６東峰十字路事件の事後弾圧で同年の１２月初旬に事後弾圧で逮捕され、クリスマス頃に釈放され出てきた時に、Ａを石橋家が耕作しているのを見て驚いた旨の証言を得た。（Ａはもともとの市東家の賃借地だが、石橋家の申し出でＣと交換し耕作した。）
８７年に石橋家が転居したのち、Ｅ、Ｆは荒地となり現在にいたる。
弁護団の質問は、東市さんの連れ合いのときさんの介護に向けられた。

市東東市さん、ときさん夫婦。ときさんの７８歳の誕生日を祝う（１９９５年５月２９日　市東東市追悼集より）

８４年にときさんは脳梗塞で倒れた。同年の市東家の母屋の新築は、この地で農業を続け闘うという東市さんの意志であり、またときさんとともに新しい家に住むという思いが込められていた。当初病院に入院していたときさんは、東市さんの強い希望で８９年に退院して天神峰に帰宅し、横井さんをはじめ現地支援は交代での２４時間介護態勢をつくった。８９年には無農薬産直農業を始めるために、作業場を新築している。
横井さんは、間近で接した東市さんを語った。「東市さんは、石橋副委員長ら反対運動をやめて出ていく人たちを目の当たりにしながら、彼らとは別の生き方をすると決め、連れ合いとともに反対運動を闘い抜く道を自信に満ちて進んでいた。ＮＡＡは、８８年４月に東市さんが同意書、確認書に署名捺印したと言うが、一番輝いている生き方をしていたその時期に、事実と異なる内容に署名することなどありえない。また東市さんは小細工とはおよそ無縁な人柄であり、『同意書、境界確認書でＥ１が当初からの耕作地であったことを確認したのに、後になってそれを否定するために元永メモを作らせた』などというＮＡＡの推測は成り立たない」

◎千葉証人

千葉盛克さん

三番目の証人は千葉盛克さん。８５～９６年に三里塚現地に常駐していた。
８４年の成田用水着工に反対して反対同盟が阻止線を張り、機動隊の暴行を受けながら５人の同盟員が逮捕された。額から血を流して逮捕される東市さんの報道写真と、その後の東市さんのの「いかなる弾圧も怒りの炎に油を注ぐだけ」との不屈のコメントは、千葉さんに強い感銘を与えた。
成田用水をめぐる８５年７・２１菱田現地闘争でデモ隊と機動隊が激しく衝突したが、この集会で発言した東市さんは、直後に医師に「うまく言葉が出なかった」と明かした。成田日赤病院で診察を受けたところ、脳梗塞と診断された。千葉さんはその後、１２月までドライバーとして千葉県救急医療センターに車で東市さんを送り迎いし、言語療法と右半身のまひの作業療法のリハビリに付き添った。言葉はおおむね普通にしゃべれるようになったが、右手にはしびれが残った。また千葉さんは、かかりつけの医師を週に２～３回市東家に車で送り届けていた。
「東市さんがそばにいると、ときさんはうれしそうににこにこしていた」と千葉さんは夫婦の仲睦まじさも表した。
このように千葉さんも、最も身近で東市さんと接していたわけだが、弁護団が「藤﨑に頼まれて何か書類に署名したというような話はあったか」と質問すると、「まったく聞いたことはない」と言下に否定した。
「市東さんは戸村一作委員長を尊敬し、空港絶対反対、農地死守、実力闘争、二期工事阻止、空港廃港という反対同盟の原則を最先頭で体現していた。８０年代は『国労をつぶし、総評・社会党を解体し、お座敷をきれいにして新しい憲法を床の間に飾る』と称して中曽根政権の戦後政治の総決算攻撃がかけられ、成田２期工事が切迫し、国鉄には分割・民営化攻撃が襲いかかった。その時に原則を曲げずに闘っていたのが東市さんだ。多弁ではないが、生き方を背中で見せた。小細工をするようなことはまったく考えられない」と、千葉さんは語気を強めた。

成田用水阻止闘争で機動隊に暴行を受け逮捕される市東東市さん（１９８４年９月２７日　芝山町菱田）

横井さん、千葉さんの証言で一層鮮明に浮かび上がった市東東市さんの不屈の闘魂は、ＮＡＡの描く珍説を完全に打ち砕いた。上野をはじめ代理人たちはショックを隠せず、予定していた反対尋問を一切放棄した。

次回期日を３月１８日と確認し閉廷。
向かいの千葉県教育会館で伊藤信晴さんの司会で報告集会が開かれた。
最初に市東孝雄さんがあいさつに立った。「法理に対し、自分も手を挙げて質問することがあるかと思ったが、残念ながらなかった。結局死んだ上西を出して、自分は責任逃れしただけ。横井さんと千葉さんの証言は、おやじとおふくろを思い出す本当にいい証言でした。ありがとうございました」
二人の証人と弁護団が勝利感をもって発言し、法廷を振り返った。法理は確かに無関係を装い続けたが、「同意書、確認書はホンモノ」との主張もできず、ＮＡＡが関連文書を隠匿していることに確信が深まった。

勝利感あふれて報告集会が開かれた（千葉県教育会館）

全国農民会議共同代表の小川浩さんが連帯発言を行い、２・１７全国農民会議総会の成功を報告し、南台農地決戦を全力で闘う決意を明らかにした。
最後に伊藤さんが「空港機能強化粉砕、第３滑走路工事阻止」の２・28現地行動、３・１８次回耕作権裁判（市東孝雄さん本人尋問など）、３・３１芝山現地闘争への連続決起を呼びかけ、一同が大きな拍手で応えた。（ＴＮ）

スケジュール
◎２・２８現地行動　２月２８日（水）（Ｂ滑走路延長予定地、第３滑走路敷地などをデモ）
◎団結街道裁判　３月１日（金）午前１０時３０分開廷　千葉地裁
◎耕作権裁判　３月１８日（月）耕作権裁判　正午　千葉市中央公園集合→市内デモ（予定）　午後１時４５分開廷　千葉地裁（現闘員・岸本豊和さん証人尋問、市東孝雄さん本人尋問）
◎芝山現地闘争　３月３１日（日）午後１時開場　芝山文化センター（千葉県山武郡芝山町小池９７３）