杉井医師(ふくしま共同診療所)が広島で講演 ヒロシマ・ナガサキの原点に戻りフクシマで被曝と闘う
私は奈良県の出身で、東京の医科大学を出て整形外科や救命救急を8年ぐらいやり、赤十字活動でカンボジアやパキスタンの難民キャンプにも参加しました。難民キャンプでは下腿切断や地雷による爆裂創の処理を300例以上、難民の健康相談もやり続けました。
福島で3・11原発事故が起きた時、長期間の難民キャンプができると瞬間的に思いました。小児科医の山田真先生から「福島へ来てください」と言われ、現地に行ってお母さん方と話をしてみて、いよいよ長期的に取り組まなければいけないと考えました。通うのではなく、福島に診療所を建てなければいけないと。そして5年間の被曝医療の結果、もう一度ヒロシマ・ナガサキに戻らなければならない、ヒロシマ・ナガサキとフクシマは同じだと確信を深めました。
◆住民に被曝強い検査廃止も狙う
ふくしま共同診療所は5年間の診療ですでに飽和状態です。いずれは「福島原発病院」をつくらなければならないと思っています。今年の3月に亡くなられた松江寛人先生は、国立がんセンター放射線科の部長を30年務め、甲状腺のエコー検査を開発した有名な先生で、放射線障害の専門家として3年間ふくしま共同診療所の院長を務めました。
福島で起こっているのは小児甲状腺がんの多発、汚染水の海への放出、中間貯蔵という名の永久貯蔵です。廃炉作業では毎日6千〜8千人が高濃度汚染された場所で働き、原発労働者の被曝がものすごい勢いで進んでいます。ふくしま共同診療所にも作業員が来ています。自宅を離れて避難生活をしている人は約6万人。昨年4月に帰還困難区域以外の「自主避難者」は補償を打ち切られました。JR常磐線は帰還困難区域の誰もいないところに電車を走らせています。
福島のお母さんがカンカンに怒ったのは、福島県立医大の教授らが「甲状腺がんの予後はきわめて良好」「不安を助長する過剰診療をするな」と主張したことです。チェルノブイリ原発事故では年間1㍉シーベルトが避難基準でしたが、福島は年間20㍉シーベルト。こんな場所は世界のどこにもない。誰がこんな基準を決めたのか。これが福島の怒りの根本にあります。
高校生以下の子ども35万人が受けているのは甲状腺の検査のみで、他の検査は一切なく、被曝者手帳もありません。手帳を交付しろという要求が今、多くなっています。百万人に1人といわれる小児甲状腺がんが福島では4500人に1人という発症率です。
放射線障害は、ここまでは安全でここからは危険なんて基準はありません。できるだけ被曝を少なくして健康を守るのが医療の基本です。「自然放射線以外の人工放射線はすべて害」ということが原則です。エコー検査などで発がんとその他の放射線障害をチェックし、避難者や仮設住宅の住民の健康相談を行い、除染作業など被曝を強要されている労働者の健康を守る。この三つが診療所の意味であり、福島での医療の基本的な考え方です。
仮設住宅には依然として7千人が住んでいますが、難民キャンプの専門家として言うと、あのように建物を並べるのは避難者が心理的に圧迫されるからダメなんです。仮設住宅の写真を難民高等弁務官の人に見せると「まるでアウシュビッツだ」と言います。避難者の間で高血圧、腰痛、不眠、精神疾患などの病気が増えていますが、避難所に医者はいませんから私たちが往診に行きます。人手も費用もかかり大変です。
さらに福島県は甲状腺検査すら打ち切ろうとしている。福島県小児科医会は、「甲状腺検査を行うことによってがんの恐怖が生じている」と主張し、これを受けて県民健康調査検討委員会の星北斗座長は「納得の着地点」と言いました。学校での検診も打ち切ろうとしています。甲状腺がんを認めれば他の疾患も認めなくてはならないからです。
◆避難・保養・医療が命を守る原則
私たちの考え方は、早期発見で治療、仮設住宅で健康相談を無料で行い孤独死や自死を防ぐ、福島原発の廃炉作業などで被曝労働を強いられる労働者の健康や命を守る、この「避難、保養、医療」の原則です。
福島のお母さんと話をするたびに、ふくしま共同診療所をやっていてよかったと思います。今日、広島で話をしようと思ったのは、ヒロシマ・ナガサキとフクシマのつながりが本当に大事だからです。8・6ヒロシマ、8・9ナガサキ、3・11フクシマ。これに続く四つ目の日をつくらないように必死に努力することが、子どもたちの世代に対する責任なのだということを、この5年間で本当に思うようになりました。今日はそれを伝えるために来ました。聴きに来て下さった皆さんに感謝します。
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