三里塚耕作権裁判―NAAの文書偽造の経緯をあばく
千葉地裁民事第2部(斎藤顕裁判長)で7月24日、市東孝雄さんの耕作権裁判が開かれた。三里塚芝山連合空港反対同盟と顧問弁護団、支援の労働者・農民・学生・市民は、直接この裁判にかかる南台農地を守り抜く決意で闘い抜いた。
開廷に先立つ午前9時、千葉市中央公園で太郎良陽一さんの司会で決起集会が始まった。最初に反対同盟を代表して、伊藤信晴さんが発言に立った。「芝山町は今、第3滑走路の建設によって、向こう10年間で60億円の税収が見込まれると浮かれている。だが住民は冷めている。3000戸の農家のうち400戸が機能強化によって移転対象にされている。反対同盟の57年の闘いは、芝山廃村化攻撃との闘いだった。農地を守り抜く市東さんの闘いにこそ人民の未来がある。この裁判で千葉地裁は、証人尋問を矢継ぎ早に行って年度内結審を狙っている。許してはならない!」
続いて動労千葉副委員長の中村仁さんが、「私たちの鉄路、住民の足を奪う廃線化攻撃が激化している」と警鐘を鳴らし、三里塚とともに戦争絶対反対で闘う決意を述べた。
さらに関西実行委、市東さんの農地取り上げに反対する会の連帯発言を受け、太郎良さんが千葉市民に向け「一緒にデモしよう」と呼びかけつつ意気高くシュプレヒコールをリードし、千葉市内デモに出発した。強い日差しを受けながら行進し、出勤途中や開店作業中の労働者に「農地死守」の訴えを届け、千葉地裁へ迫るデモを貫徹した。
10時30分開廷。
弁護団は、「人証の申出1」を提出し、空港公団(成田空港会社=NAAの前身)の用地部に属し用地買収交渉に当たっていた者たち(法理哲二、進藤秀一、浅井昭、浅海輝行、保坂克人、山田正博、鶴岡幸男、白鳥晃、高橋通夫、鈴木勲、糸賀豊、浅子直樹)を証人尋問することを求めた。
さらに弁護団は、空港公団が旧地主藤﨑政吉の所有する南台の土地の買収に関連する文書記録(「権利関係の調査」「買収の交渉、その報告」「用地買収の内部検討」)を裁判所に提示するよう求める申立書を提出した。
これについて意見を求められた原告NAA代理人・上野至(元千葉地裁裁判官から転身!)は、臆面もなく次のように述べた。「今頃になってこういうことを言う理由が理解できない。裁判所の計画として、来年の3月までに証拠調べを終えることになっている。訴訟を遅延させ、終結を遅らせることになるので申し立てを認めるわけにはいかない」
傍聴席から激しい弾劾・怒号が次々と発せられた。これまで文書提出命令に従わず立証責任を何ら果たしていない原告NAAが、反対同盟側に向かって「訴訟遅延」だと? ふざけるのもいい加減にしろ!
弁護団は続いて準備書面(48)を陳述した。
成田空港は1978年のA滑走路のみでの開港の上に、天神峰地区、木の根地区でのB、C滑走路建設を目指して86年に第2期工事に着手した。87年には公団、国交省、千葉県収用委員会の間で強制収用発動に向けた綿密な調整と具体的準備が進められた。(収用委は88年春に人事を一新、成田空港以外の収用事件を全部処理して秋に備えた。)
そうした中で公団は強制収用へのタイムリミットに迫られ、賃借権が付いたままの地主からの土地買収へと踏み出した。公団は市東家の南台の賃借地の位置が当初からAとB(関係土地図)であることを認識し、強制収用手続きを進めてきた。一方、市東東市さん(孝雄さんの父・故人)の認識も戦前から賃借地がA・Bであることは一貫している。
ところが地主・藤﨑は自らのずさんな手書き図をもとに、市東家の賃借地がE1とBである旨をかたくなに主張し、公団と衝突した。その背景には、藤﨑が以前から用地買収での金銭補償額に不満を抱き、さらに自らのホテル経営不振のあせりから、より多額の補償を公団から得ようとする狙いがあった。
公団は「A・B」説での説得を諦め、藤﨑にしたがい「E1・B」が市東家賃借地との立場に変更した。そしてそれに合わせて、東市さんの署名捺印がある「同意書」「境界確認書」の偽造に手を染めた。
このような経緯を反映する公団と藤﨑との用地交渉記録は、存在しないはずがない。だがNAAは裁判所の提出命令に従わず、「文書はない」「担当者は故人でわからない」と言い続ける。その見え透いたうそが一層文書偽造を裏付ける状況証拠だ。
【87年12月26日、東市さんは地代を払いに藤﨑を訪れた。その際、藤﨑は東市さんに当初からの賃借地の位置を尋ね(公団の差し金)、東市さんはそれに答えた。藤﨑のずさんで誤った手書き図がその2日後に書かれている。それに合わせて、公団は唐突に「E1、B」説へと主張を転換して地積測量図(88年3月1日付け)と、その測量図を添付した「同意書」「境界確認書」(同年4月11日付)の作成(偽造)に至る。
だが東市さんは藤﨑訪問後の同じ時期に、反対同盟法対部の元永修二氏の丹念な質問・調査に答える形で、「当初からの賃借地はA・B」と明確に答えていおり(元永メモ、同年3月19日付)、これこそが真実だ。】
被告側に「訴訟遅延」の責任を転嫁するとは、どこまで恥知らずか。文書隠しで訴訟の進行を妨げているのはNAAであり、もはや言い逃れは許されない。関連するすべての文書を提出し、元公団用地部職員に証言させよ!
この弁護団の至極まっとうな主張・要求に、裁判長はうなずきながら聞き入り、「裁判所としては、原告に文書提出していただきたいというスタンスは変わりない」と述べた。
さらに弁護団は証人尋問を申請した公団用地部所属の旧職員について、直ちに安否消息を確認するよう求め、「原告が人証申請をまったく出さないなど許されない!」とNAAに語気鋭く迫った。
また裁判長に対しては、原告の無責任な姿勢を改めて指摘し、来年3月に人証調べ終了などという計画は到底現実的でないことを突きつけ、「人証の申出(2)」を提出することを予告した。
次回期日は9月25日、次々回は11月13日で、いずれも人証調べではなく弁論と確認し閉廷した。
千葉県弁護士会館で、伊藤さんの司会で報告集会が開かれた。最初に市東さんがあいさつに立った。「私の営農の再建もおかげさまで順調に進んでいます。今日の裁判長の姿勢はまだよくつかみきれませんが、この裁判は勝てると弁護団と確認しています。今後もみなさんの傍聴と有効なヤジの力で、絶対に勝とうと思います」
続いて弁護団がそれぞれ発言し、この日の弁論で解き明かしたNAAによる文書偽造の経緯、動機、背景などを振り返り、「同意書」「境界確認書」のみに依拠するNAAの主張のもろさを指摘し、拙速裁判を許さずに徹底的に闘う決意を表した。
全学連、群馬・市東さんの農地を守る会、東京西部ユニオンからの連帯発言を受け、最後に伊藤さんが「市東さんの農地を守りぬくことが、既成の価値観を変え世の中を変える。9月の耕作権裁判に結集しよう。反対同盟が呼びかける機能強化・空港拡張に反対する署名への取り組みを」と訴えた。(TN)
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