出向命令は違法・無効 動労総連合強制出向無効確認訴訟 結審迎え最終陳述
動労総連合強制出向無効確認訴訟は6月7日の口頭弁論で原告、被告双方の最終陳述が行われ、12年12月の提訴以来、4年半にわたり東京地裁民事第11部(佐々木宗啓裁判長)で争われてきた裁判は結審を迎えた。
この裁判は、検修・構内業務の外注化により外注先への出向を強いられた動労千葉、動労水戸、動労連帯高崎の組合員が原告となり、JR東日本に対し出向命令の取り消しを求めて闘われてきた。
最終準備書面の要旨を陳述した原告側の代理人弁護士はまず、「JRへの復帰が予定されていない出向命令は実質的な転籍であり、違法・無効だ」と断定した。出向期間は3年とされているが、この裁判で会社側証人は「出向者を3年後にJRに戻す具体的な計画はなかった」と明言した。検修業務を丸ごと外注化したのだから、JRには戻る職場は存在しない。定年まで外注会社に出向させ続けるというのが、JRの攻撃だ。
原告側はまた、動労総連合が出向協定の締結を拒んで闘ってきたことを強調した。資本による出向命令が有効とされた過去の判例でも、労働組合との協約の存在は重要な判断要素のひとつにされている。原告代理人は、「出向協定を結んでいない動労総連合の組合員に出向を命じることは、権利の乱用だ」と主張した。
原告代理人はさらに、「外注化と出向の目的は労働条件の切り下げと団結破壊」とたたみかけた。この裁判で会社側証人は、「外注先のプロパー(直雇い)労働者に清掃作業も検修作業も行わせれば労働密度が上がる」と言い放った。外注先の労働条件をとことん切り下げ、やがてはその条件で出向者を外注先に転籍させることが、JRの最終目的だ。しかもJRは、動労千葉が外注先でストライキを構えると、その日の業務は外注先に発注しなかったことにして、JR側で業務を行うという形でスト破りをしている。労働基本権の根本的な否定だ。
外注化は偽装請負を必然的にもたらす。一元的に管理されるべき鉄道の業務がばらばらに外注化され、安全も崩壊した。原告側は、「違法な状態のところに出向を命じること自体、違法・無効」と結論付けた。
原告を代表して動労千葉の関道利副委員長、動労水戸の石井真一委員長、動労連帯高崎の漆原芳郎委員長が意見陳述に立った。外注化による安全崩壊や、定年まで出向させ続けるJRへの怒り、一元的に管理されるべき鉄道業務が分割されたことの不合理性を、それぞれが説得力をもって主張した。
これに対しJRは、「定年を超えてエルダー社員として再雇用された人には原告適格がない」と言い放ち、「出向命令は就業規則に基づくから効力が否定される余地はない」「出向後の職場・業務は以前と同一だから、原告の不利益は通常の配転より少ない」「仮に偽装請負があったとしても出向命令の効力とは関係ない」と開き直った。さらに、スト破りについても、「受託先で業務ができなければJR側でやるのは当然の経営判断」とまくし立てた。JRのこうした傲慢(ごうまん)な言い分に、法廷の怒りは高まった。同時にこれは、原告の主張にJRがまともに反論できなくなったことを示している。
双方の主張を受け、裁判長が10月10日の判決日を指定した。
●近藤名誉教授を招き総括討論会
裁判後、日比谷図書文化館小ホールで、「出向無効裁判が切り開いたもの」と題して総括・討論会が行われた。原告代理人の各弁護士が、「裁判内容では完全にJRを圧倒した」と勝利の手ごたえを語った。
出向命令の違法性を明らかにする意見書を執筆した近藤昭雄・中央大学法学部教授は、「労働は労働者の主体的営み」と強調し、「労務指揮権の譲渡は労働者の承諾が必要。そうでなければ人身売買になる。だから民法ですら労務指揮権の譲渡を禁じている。経営者が労働者を勝手に出向させることはできない」と説き明かした。また、「外注先がJRに組み込まれ、独立して業務ができない以上、偽装請負だ」と断定し、「出向命令に抵抗することは重要な反合闘争のひとつ」とこの裁判の意義を明らかにした。
近藤名誉教授への質問も含め、活発な討論が交わされた。特に、JRが最後のよりどころとしている「就業規則に基づくから出向命令は有効」という「就業規則万能論」にどう反撃するかがテーマになった。労働契約法で、就業規則の変更による労働条件の切り下げも「合理性」があれば有効とされたことにより、この攻撃との対決は普遍的な課題になっている。この問題をめぐって、原告代理人は「動労総連合が出向協定を拒否し、就業規則だけを根拠にせざるを得ないところにJRを追い詰めたことは重要だ」と指摘した。
動労千葉の田中康宏委員長が、外注化との闘いを振り返り「膨大な労働者を非正規職に突き落とす攻撃は外注化によって行われてきた。しかし、外注化に抵抗した労働組合の闘いはまったくなかった。動労総連合だけがこの闘いに挑戦し、外注化を止めてきた。だが、ついにJRはこれまでの攻防に決着がつかないまま、分社化と転籍の攻撃に踏み出してきた。これと対決してこそ、韓国のようなゼネスト情勢が生み出される」と訴えた。
動労総連合の各単組が、「勝利の鍵は組織拡大」と不屈の決意を表明した。
〔写真〕近藤教授(左)を招き総括集会
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