1. HOME
  2. ブログ
  3. 成田拡張差し止め裁判―国の「原告適格なし」に反論

成田拡張差し止め裁判―国の「原告適格なし」に反論

成田空港機能強化による第3滑走路新設、1ターミナル化の予想図。一帯の地形・水系は破壊され、騒音地獄と化す

千葉地裁民事第3部(岡山忠広裁判長)で9月13日、成田空港拡張差し止め裁判が開かれた。
三里塚芝山連合空港反対同盟はこの裁判で国と成田空港会社(NAA)に対し、①B’暫定滑走路の2500メートルへの延長(2006年)、第3誘導路建設(10年)の違憲・違法性を追及し、②「空港機能強化策」を掲げた施設変更許可(2020年)により現在進められているB’滑走路の再度の延伸(3500メートル化)、第3(C)滑走路建設などの空港拡張工事の差し止めを求めている。
被告・国は前回までに、反対同盟員について「原告適格がない」などとする反動的主張を述べ立ててきた。反対同盟顧問弁護団は今回これに全面的に反論する準備書面を陳述した。
最初に、原告・伊藤信晴さんについて、芝山町大里の白枡に1979年に家を新築して以来そこに住み、土地の借地権と家の所有権を有していることを証拠を提出して証明した。白枡集落は第3滑走路建設に伴い「全戸移転対象」とされ、一部の近隣住民が移転を始め、すでに生活に重大な影響が出始めている。だが、伊藤さんについて「いかなる財産権を有しているか明らかにしろ」などと求める、国の基本姿勢こそが問題なのだ。
航空法第39号1項2号には「空港等又は航空保安施設の設置によつて、他人の利益を著しく害することとならないものであること」とある。これが被告にあっては「他人の利益」=不動産であり、原告適格を有するのは「私権制限を受ける区域内に財産権を有する者」と限定されてしまう。つまりそこに土地や家を所有している者しか裁判に訴えることを認めない、空港周辺住民など個々人の騒音被害、健康被害、生活への支障、落下物や事故による生命・身体への危険などの人格権に考慮する必要はない、というのだ。
財産権を至上のものとし人間を無視する考え方は、憲法第13条(人権保障)、第25条(生存権)に背き、根本から間違っている。
また被告・国は航空法の解釈について、「航空機運航を推進することは、一義的に「公共の福祉を増進するという公益的見地だ」と強弁するが、これもまったく誤りだ。「飛行機をどんどん飛ばすことが公益だ」、そんなでたらめは通用しない。今年1月の羽田空港での大衝突死亡事故をはじめ、空港での航空機事故の頻発がそれを物語っている。
被告・国の議論はつまるところ、航空法における空港設置関連法規は空港設置のための技術法規だ」というに尽きる。つまり、財産権問題をクリアすれば住民が被る生活破壊、人格権への侵害がいくら起きても関係ないという考えであり、憲法における個人の尊重、基本的人権、生存権を無視している。そんな空港建設を進めてはならないのだ。
また弁護団は国への認否・反論として、成田空港の国際民間航空条約(シカゴ条約)からの背反、騒音・事故発生の軽視を厳しく指摘し、国際線運用実績の著しい低迷状況にもかかわらず「機能強化策」を強引に進めていることを弾劾した。
さらに、北海道大学大学院助教・田鎖順太さんが作成した「成田国際空港周辺の2015年度と2019年度の夜間騒音暴露状況と住民の健康影響に関する意見書」を弁護団は証拠提出し、その要点を明らかにした。
夜間騒音は、滑走路延長線上の直下で顕著に高く、滑走路端から10キロ以上遠方でも、最大騒音レベル60デシベルの騒音イベントが毎晩約10~20回以上繰り返されている。
WHO欧州地域事務局によるガイドラインに照らしても、住民には放置できない深刻な睡眠妨害が生じていることをうかがわせるものだ。そして機能強化によって滑走路が延伸・新設され、夜間発着数が一晩で150回に増えるとなると、いま騒音被害を受けている地域での睡眠妨害のリスクは3・8倍になると予想される。
田鎖意見書は、「住民の健康を保護するという公衆衛生の観点から、このような計画は極めて危険であると考える」と締めくくられている。
被告席に並ぶ成田空港会社(NAA)と国の代理人弁護士計9人は、以上のように成田空港とその機能強化が住民の命と生活を脅かすことへの根底的批判が突きつけられても、無表情を装っている。
次回期日は12月24日、次々回は来年3月14日と確認し、この日は閉廷した。

裁判閉廷後、千葉県弁護士会館で報告集会(9月13日)

千葉県弁護士会館で伊藤信晴さんの司会で報告集会が開かれた。弁護団の発言で特に、「航空法は技術法規」との論理で責任逃れするやり口は、各地の原発設置をめぐる訴訟においても同様に、「基準に合致」していれば実際の住民の安全を無視して推進という形でまかり通ってきたことが強調された。
伊藤さんがあらためて怒りを込めて訴えた。「NAAは説明会で、これからは小型機が中心になり、騒音も小さくなると言っている。だが、もし機能強化が29年に完成したとすると、4000メートル1本、3500メートルが2本、これで大型機がどんどん飛ぶのは明らか、事態は一変する。そして軍事空港へと変貌する。北総一帯の住民生活はすべて消滅するだろう。機能強化が貫徹されたらそういうひどいことが現実になる。大型機の騒音データは今ないが、この裁判で追及しなくてはならないと感じる」
それを受けて弁護団は、この差し止め裁判を一層重視して取り組む意気込みを示し、また9・30耕作権裁判最終弁論完成へ向けて追い込みに入っていることを明らかにした。
参加者全員で、9・30デモと裁判傍聴に集まり、10・13全国集会(成田市赤坂公園)に立ち上がることを誓い合った。
この日の裁判開廷に先だって、反対同盟と支援連は千葉地裁前で正午から、耕作権裁判での反動判決、南台農地強奪を許さない情宣活動を行った。(TN)

スケジュール
◎耕作権裁判 9月30日(月)午後1時30分開廷 最終弁論 千葉地裁
◎10・13三里塚全国総決起集会 10月13日(日)正午 成田市赤坂公園 主催/三里塚芝山連合空港反対同盟

耕作権裁判最終弁論へ向け千葉地裁前で反対同盟の支援連が情宣。「民事2部・齊藤顕裁判長は農民殺しの手先になるな!」と訴えた(9月13日)

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。

関連記事

アーカイブ

月を選択